幸太郎様、如何お過ごしでしょうか。
もうすぐ貴方の誕生日ですね。
お互いに又一つ年齢を重ねましたが、私の中の貴方は、永遠に二十代のままです。
あれから随分と月日が経ちましたから、きっと貴方は素敵な紳士になられたのではありませんか?
あの頃、貴方は自分の硬くて多い髪質が嫌いだと言ってましたが、貴方の大好きなお父様のようなロマンスグレーになったのでしょうか?
私は、すっかりおばあちゃんになってしまいました。
見掛けだけじゃなく、本物のおばあちゃんにです。
貴方に余り懐かなかった愛美を憶えてますか?
あの娘も今では二児の母なんです。
考えてみれば、今の愛美の歳の時に貴方と出会ったのですね。
貴方はちゃんと素敵な方を見つけましたか?
幸福でいてくれなければ、私は悲しくなります。
まだ離婚が決まっていなかったあの頃、貴方は突然私の心に飛び込んで来ました。
眩しい程に真っ直ぐな想いをぶつけて来るのですもの、私は随分と戸惑ったものです。
貴方がいきなり結婚しようと言って来た時には、驚きよりも畏れを強く感じました。
勿論、嬉しさもありました。
偽りの愛で、十年という歳月を過ごしてしまった私には、貴方との新しい人生を踏み出せませんでした。
私が正式に離婚したのは、貴方が北海道を出て、再び東京へ戻られた翌月でした。
二人の娘は私が引き取り、ずっと再婚せずに成人させました。
再婚しなかった理由は……
秘密にします。
特に、貴方には教えません。
誤解の無いように言いますが、ちゃんと恋愛はしてました。
たくさん……
それは嘘ですけど。
女は、何時までも昔の恋にしがみつかないものなんです……
と言いたいのですけど、そんな事はありません。
此処にそうじゃない女が、少なくとも一人居ますから。
思えば、二人の逢瀬は何時も人目を気にし、密会のようでした。
そんなどろどろとした恋愛を貴方にさせてしまった事だけが、私の唯一の心残り。
ですから、あの時言えなかった言葉を此処で言わせて下さい。
許して下さい、そして、ありがとう……
千恵子より