君にいったい何通の手紙を書いた事だろう。

今思うと笑ってしまうけど、毎日のように出していたね。

電話だって毎日掛けていたのに。

そういえば、電話を掛ける度に、

「結局、貴方に返事をする内容を全部話しちゃったじゃない。」

と呆れられた事もあったね。

一回りも年下の君だったけれど、僕の方が何時も甘えていたっけ。

一緒に暮らすようになって初めて喧嘩をした夜、勢いで部屋を飛び出した僕は、一晩中街をふらついていた。

朝方、君が寝ていると思って、そっと帰ってみると、君は一睡もせずに起きていた。

僕の顔を見るなり、

「ばか!心配するじゃないの!」

と言って、僕の胸を何度も叩いて泣いた。

初めて見た君の涙。

二度と君を泣かすまいと、その時は思っていたのに……

二度目に君の泣き顔を見た夜……

それが君を最後に見た夜だった。


その何ヶ月後かに、一度手紙を出した事があったけれど、数日してその手紙は戻って来た。

あの部屋を君は、出て行ってるかも知れないと薄々判ってはいたんだ。

けれど、もしかしたらって……

嫌いになった訳でもないのに、どうして二人は別れてしまったのだろうと、今でも思う事がある。

「ごめんなさい、もうあなたを支えて上げられない…疲れた……」

それが最後に聞いた君の言葉。

情け無いけれど、あの頃の僕は夢ばかりを語る、ただの優柔不断な男だった。

毎晩語る僕の夢に、君は僕以上の真剣さで向き合っていた。

夢を語っている僕は、結局は何もしなかった。

ずっと僕を信じてくれていたのに、何も応えなかった。

この前、君と暮らしたあの街を久し振りに歩いてみた。

駅前はだいぶ変わっていたけど、あのアパートは今でも変わらずにあったんだ。

つい懐かしくて、僕は部屋の前まで行ってみた。

僕から毎日のように手紙が来るからと、君が取り付けた赤い郵便受け……

だいぶ古くなって色褪せてしまってたが、そのままだった。

夢の事……やっと、それに向かって歩けてる。

時間が掛かり過ぎたけど……

一言だけ……

ごめんねと、ありがとうを一緒に言ったら、おかしいかな?