拝啓。

裕美子様、突然の手紙、きっと驚かれてらっしゃる事でしょう。

何故僕から?

そう思ってらっしゃる事は、この手紙を書いている今、充分に想像出来ます。

貴女が私の家に来たのは、私が中学に入学したばかりの事でした。

一回り年上の貴女は、初対面の時から私を本当の息子のように思ってくれました。

私といえば、丁度思春期に差し掛かった頃でしたので、一つ屋根の下で暮らす貴女の存在を複雑な思いで見ていたのです。

でも、決して貴女を疎ましいとか、厭だとか感じた事は一度もありませんでした。

貴女にあれだけ冷たく当たったり、生意気な態度を取っていたのは、貴女を家に連れて来た父への反発が原因でもありました。

何の前触れも無く、突然に貴女を連れて来て、

「今日からお前の姉さんになってくれる人だ。」

と言われれば、男女の性に少しばかり目覚め始めた私が、素直に現実を受け入れられなかったのも仕方が無い事だったと思うのです。

母親と言わず、姉さんと言って私に貴女を紹介した父の心情は、父が亡くなってしまった今、理解のしようもありません。

貴女はこの事をどう思い、どういう気持ちで私と接してくれていたのでしょう。

貴女と一緒に過ごした時間は、ほんの僅かなものでした。

そういえば、思い出らしい思い出というのは、残念な事に、貴女が出て行った夜の事だけ。

あの夜、父は口論となった貴女と私に、

「お前がこの家に居ていいかどうか、倅に聞いてやる。
おい、裕美子がこのまま居てもいいか?お前はこの姉さんが好きか?」

と言いました。

好きだ、ずっと居て欲しい……

と、言葉に出来ず、私は泣き出してしまいました。

本当は…本当は貴女に居て欲しかった癖に、何故無言のままだったか……

この歳になって、漸くその時の気持ちが判りました。

私は、貴女が父のような男の女でいる事が、堪えられなかったのです。

貴女を……

貴女を好きでした。

今の私は、丁度あの夜の父と同じ年齢です。

今なら……