夜ともなると、路上ライブをするストリートミュージシャンの姿を見掛けます。

渋谷、新宿、池袋、横浜……

それぞれの街を通り過ぎる度に、彼らを見て、僕はどうしても君の姿をダブらせてしまいます。

僕らの時代は、丁度フォークソング流行の頃でした。

かぐや姫、グレープ、拓郎、赤い鳥……

君と初めて出逢ったのは、確か16の時でした。

僕の同級生と君は二人組のフォークデュオを組んでましたね。

名前、まだ憶えてます。

『赤えんぴつ』

女の子二人組というのは、当時では珍しかったように思います。

君の高校の文化祭で、僕は初めて君の歌を聴きました。

歌は…ごめんなさい、忘れてしまいました。

正直言うと、歌は殆ど聴いてなかったかも知れません。

同級生が僕の姿を見つけ、そして君を紹介してくれたんです。

はにかみやさんでしたよね。

俯いて、小さな声で話す君は、16という年齢より幼く見えました。

そんな君でしたが、ギターを持ってステージに上がると、まるで別人のようになり、感情豊かに歌っていたんです。

そのギャップに、僕は惹かれ始めました。

けれど、君の事を幼いなどと言える程、僕も大人ではありませんでした。

特に女の子への接し方が。

何度か君と逢いながら、僕はデートに誘う事もせず、当然、自分の気持ちを伝える事もしませんでした。

不器用…そう言うと何だか格好良く聞こえますが、ただ幼かっただけなのと、臆病だったのでしょう。

君が家庭の事情で東京を離れたと知って、僕は少し後悔しました。

ちゃんと自分の気持ちを伝えていれば……

あれから時代は変わり、僕らの息子や娘位の若者達が、路上でギターを掻き鳴らしています。

あの頃の君のように、思いの丈を歌に込めて。

僕の書斎には、あの頃良く聴いたレコードがまだあります。

時々、針を落としてみます。

“大学ノートの裏表紙に さなえちゃんと書いたよ……”

ほんのりと温かいメロディー。

さなえちゃんと……

僕は裏表紙には書かず、この手紙に書いてます。

早苗様へ……と