どうしてこんな手紙を書こうと思ったのでしょう。

正直、わたしにもよくわかりません。

昔から気まぐれなやつとは言われてましたから、そのせいなのでしょう。

それとも、久し振りにあなたの手紙を読んだからでしょうか。

あなたの物は、全部棄てたと思ってました。

たくさん貰った手紙も燃やした筈でした。

それが、たった一通だけ残っていたんです。

懐かしい…素直にそう感じれて、久し振りにあなたの癖字を追い掛けました。



あなたと暮らした月日は、僅かなものでしたが、その後を振り返っても、あの時程の濃密な時間を過ごせてはいません。

あなたの事を一生懸命、忘れようとしました。

別れて暫くは、あなたから受けた心の傷が生々しくて、新しい恋にとても臆病になってました。

だから、わたしはあなたを恨みました。

あなたの嫌いだったところばかりを思い出そうとしました。

でも、浮かんで来る事は、その逆。

あなたがお酒を飲む時のグラスの持ち方。

タバコを吸う時に少し目を細める顔。

あなたの声。

あなたの匂い。

そして、一番好きだったのが、わたしの呼び方。

あなたは、わたしを名前で呼ばす、何時も、君と読んでくれました。

そう呼ばれるのが、わたしは何よりも嬉しかった。

ようやく、あなたの事を想い出というアルバムに納める事が出来て、幾つかの新しい出逢いを経験しました。



久し振りにあなたの文字を追い掛けていたら、そういった、いろいろな事がいっぺんに目の前に広がって来ました。

驚きました。

自分の中に、まだあなたが息づいていた事に。

今は、何処で何をされてますか?

素敵な人は見つかりましたか?

わたしは、来月結婚します。

優しい人ですよ。

あなたには、全然似ていません。

わたしを呼ぶ時は、名前で呼んでくれます。

わたしを君と呼ぶ人は、あなたで最後になりそうです。

さて、そろそろこの手紙をお終いにします。

宛先が判りませんから、残っていたあなたの手紙に添い遂げさせます。

ありがとうの言葉も添えて……