前略。

突然の手紙、さぞ驚きの事でしょう。

書いている僕も驚いている位ですから。

貴女を初めて



と、此処から字が変わった事にチカは気付きましたか?

実は、ずっと書けないでいた手紙だったんです。

棄てたと思っていた便箋が出て来た時、最初は自分でも書きかけの手紙の事をすっかり忘れていました。

強く押し付けられたボールペンの跡。

角ばった文字。

背伸びした文面。

見つめているうちに、やっとチカの顔が浮かんで来たんです。

そうしたら、もうペンを握ってました。

チカは、僕の気持ちに気付いてましたか?

多分、気付いてなかったと思います。

違いますか?

気付いていたとしたら、いえ、その事はもうどうでもいい事です。

僕自身の気持ちをはっきりさせなかったのがいけなかったのですから。

怖かったのでしょう。

友人という立場でならば、ずっとチカの傍に居られる。

自分の気持ちを打ち明けて、もし、僕が望んでいた結果にならなかったら……

傍に居られなくなると思ったんです。

怖かったから、だから、この手紙も途中迄しか書けなかったのでしょう。

傷付く事を恐れ、チカとのゆるやかな時間を選んだ筈でしたが、結果は……

あれからの僕は、幾つかの恋をし、傷付き、傷付け、そして又、新たな出逢いを求めています。

笑わないで欲しいんだが、実は、最近も失恋したばかりなんだ。

今迄、自分でも失恋の理由って判らなかったんだが、やっと気付いたんだ。

この、書きかけの便箋を見付けてね。

僕は、ずっとチカへの想いをしまい込んだままにしていた。

燃え尽きたものは想い出として残るけど、僕のは不完全燃焼のまま。

だから、知らず知らずのうちに引きずっていたのかも知れない。

それで、この手紙を改めて書こうと……


あの頃の気持ちを、たくさんの歳月が過ぎ去った今、きちんと文字に込められるか不安だけどね。

今更だけど、チカ、君を愛してる。

誰よりも。