「う~ん。そうだな、あと30分くらいだと思うが……、俺も初めて行く所だから、イマイチ良く分からないな」


武士はメガネの奥の視線を前方に固定したまま、ちょっと眉根を寄せて答えをよこした。


もう、真夜中の2時を回っている。


クネクネと、きつくカーブする暗い山道は舗装されてはいるけど、どうにか普通乗用車がすれ違えるくらいの広さしかない。


進行方向右側は、木々が鬱蒼と茂り黒い壁を作っていて、左側の白いガードレールの向こうは、奥深い谷がポッカリと暗い口を開けている。


運転を誤れば、そこは正に奈落の底だ。


注意一秒、ケガ一生。


せっかく久々の夫婦水入らずでの、お泊まり旅行。


ハンドルを握る手も、慎重になろうってものだ。


金・土・日の三連休を利用して、とある高原のキャンプ場に遊びに行く所だった。


そのキャンプ場は、日の出の美しさで定評がある場所で、どうせなら道路が空いている夜のうちに車を走らせて、朝日を堪能しようと言う事になったのだ。