ゆっくりと、一筋の細い煙が、白い龍のように空へと昇っていくのを住谷は見上げていた。

今日の空は、美しい。
太陽の放つ優しい色が、所々に浮かぶ雲に1つずつ色を残して、遠くの山からここまで続いている。

今までなかった風が頬を撫で、白い龍がぐらりと体を揺らす。

(…そろそろか?)

住谷は後ろ手に持っていた棒を、足元の白い龍が出ている小さな山に差し込む。
楽しかった今日を思い出すと、顔がほころんだ。


今日、六年生が学校中の落ち葉を集めてくれた。
目的は、焼き芋。
大きな落ち葉の山の前で、期待の色を強く含んだ目をした子供達に住谷は、

「今日はありがとう。でも、このイチョウの葉っぱは
…燃えません。」

言葉を区切りながら、両手を腰の後で組み、言い放った。


口角が自然と上がってくる。
子供たちの唖然とした顔、思い出すだけで笑みがこぼれる。

「校長先生!」

六年の担任が走ってくる。そして…

「今日はありがとうございました。」

可愛らしい笑顔を浮かべる彼女に笑顔を返す。

「でも、私も知らなかったからびっくりしました。校長先生がおがくずを用意してくれたおかげで焼き芋パーティー成功しました。」

「…私も小学生の頃、校長先生にやられたんですよ。」

その穏やかな言葉に彼女は、あ、それで…と笑った。

「さ、先生達を呼んで来て下さい。焼き芋が焼けましたよ。」

小さな山の中から現れる銀色の固まり。
彼女は嬉しそうに職員室に走っていった。

太陽はすっかり姿を消し、様々な色だけが残る空に、住谷はあの頃の校長先生の笑顔を見たような気がした。

(…大成功ですよ、先生。)
               おわり