「ま、先生も来たようだし、オレはそろそろ帰るよ」

 紅葉の表情が一転して曇る。

「もう帰っちゃうの?」

「さすがに夜遅いしな。日付が変わっちまう」

「また、来てくれる?」

 不安そうに見上げる紅葉を安心させるように、オレは笑って言った。

「また来るよ」

「きっとよ、陣。約束だからね」

「ああ。またな。お休み、紅葉」

 病室の入り口ですれ違った医師に会釈をして、今度こそオレは病院を後にした。

 天頂にかかった月が、帰り道をやわらかく照らしていた。