駐輪場に自転車を停め、オレは目の前の建物を見上げた。
 視界に映るは白亜の病棟。

 駐輪場は病院の中庭に面したところにある。昼間には、比較的体調の良い入院患者やその家族が、ここで外の空気を楽しむのだろうが、この時間には誰もいない。

 冴え渡る月だけが、中央にある噴水を照らしていた。


 病院に入ると、面会時間は終了間際で、院内に人の数は多くない。
 受け付けに寄ることなく、オレはまっすぐに目的の部屋へ向かった。

 部屋の表札に、一人ぽつんと書かれた名前。


[草薙 小夜](くさなぎ さよ)


 この世でたった一人の、オレの家族の名前だった。