朝の回診。
先生もやはりいつもより低い血圧が気になるらしい。
「矢口さぁん!」
問いかける先生への返事は、今日も無い。
おばあちゃんは正しく前が見えていないのか……ただただおじいちゃんの隣に座り、黙ってその姿を見続けていた。
「お父さん達着替えとか取ってくるから、葵はおばあちゃんと待っててくれる?」
「わかった」
沈黙の時間……。
そんな中でも看護師さん達はいつも尊敬するぐらい明るく元気で
「日中は起きてて欲しいんですけどねー今日の矢口さん相当眠たいかな?」
冗談みたいに言う言葉につられて笑顔になる。
だけど
そんな時間は
短すぎて……。
突然、夜だって指さなかった数値を機械が表示し、鳴り響いたベルに先生が飛んできた。
先生は
「会わせたい人がいれば、呼んだ方がいいでしょう」
静かにそう言った。
ドラマとかで見た事あるよ?そんなシーン。
おじいちゃんは……いなくなっちゃうの??
なんて、私が悩んでる場合じゃない。
今、大切な人を失いかけて辛いのは私なんかよりもおばあちゃん。
「おじいちゃんの名前呼んであげなきゃ!」
「そうは言っても長年名前なんて呼んだ事ないし……」
「いつも何て呼んでたの?」
「ねぇ、とかちょっと、とか」
「じゃあそれでいいから」
それでも
結局おばあちゃんは一度も声を発しなかったし涙も流さなかった。
それは……愛が無いからじゃなくてきっと恥ずかしかったんだと、少なくとも私にはそう見えたよ。