僕にキが訪れる

「別に、苦しくもなんともないよ。本当さ。
むしろ、普通に死ぬのに比べれば幸せなんじゃないかな……
何せ、最後は木になるだけなんだ。
痛みもないし、ただ少しの間だけ不自由を我慢するだけさ。
だから、全然大丈夫」


「嘘よ」


キッパリと、彼女は否定した。


「だって、だったら隠す必要なんかないもの。
全然平気だって言うなら、わざわざ隠したがる必要ないもの」


「それは、言わなかっただけだよ。
言ってどうにかなる問題じゃないだろう？」


「それは……そうだけど」


「うん、ただそれだけだから。
これは、俺だけの問題。
キミが気に病む必要はないんだ」


そう言って、僕は笑う。

何でもないよ、と。

だから、これ以上近付かないでくれ、と、密かに気持ちを込めて。


もう、僕になんか構わないでくれ、と。


「でも、だったら」


思い出したように、彼女は言った。



「だったら何故、あの時逃げたの？」