『…ちーちゃん、海好き?』


どれくらいの間、その場所に居ただろう。


沈む夕日を見ながら、隼人は口を開いた。



「うん、超好きだよ!」


『そっか、俺も好き~♪』


そして隼人は、その視線を再び海へと戻した。


どこか遠くでも見つめるように、目を細めた顔が少し寂しげに見える。



『俺さぁ、生まれてこの方、ゆっくり海なんて眺めたことねぇから…。
ちーちゃんとが初めてだよ?』


「…え?何で?」


思わず聞いてしまった。



『…何でだっけ。
忘れちゃった♪』


それ以上何も言わない隼人に、あたしも何も聞けなかった。


チクリと胸が痛み、小さな不安が押し寄せてきて。


隼人はいつも、弱音なんて吐かないから。


過去も何も、話してはくれない。




『…帰ろう?』


「…うん…。」



磯の香りは、少しだけあたしを切なくさせた。


海風が優しく包み、戻れない場所にいることを少しだけ忘れさせてくれる。


この一瞬が、永遠であればと何度願ったことだろう。



あたしが今、海の見える場所で暮らしてるって聞いたら、

隼人はどんな顔をするだろうね…?


そこに隼人が居る気がするから…。