「こんな顔嫌だよ!!
もぉ一回撮って!!」


突然の出来事で、写真の中のあたしの顔は、マヌケそのものだった。


折角の初めてのキスの写真が、こんな顔なんてありえない。



『ヤダ。』


だけど隼人はそう言うと、そのまま歩き出してしまった。


仕方なく、あたしは隼人の後ろ姿を、内緒で写真に収めた。


輝く海に向かって伸びる真っ白な道路。


少しだけ襟足が伸びた隼人の髪が、風に揺られていて。


気を抜けば、その背中に置いて行かれそうになる。





『ちーちゃん、海だぞ!!』


道は途切れ、その先は海が広がっていた。


引いては返す波が、しぶきとなって飛び散って。


嬉しそうな隼人の顔に、気付いたらあたしは、シャッターを押していた。



『…今、撮った?』


ハッとしたように隼人は、口元を引き攣らせて。


してやったり顔のあたし。



「うん、撮った♪」


今度は、隼人の最高の笑顔が撮れた。



『うわ~!最悪!!
絶対俺に見せるなよ?』


隼人は、ガックリとその場にしゃがみ込んだ。


さっきの恨みとばかりにあたしは、笑いが込み上げてきて。



「ヤダ!
超現像して、ばら撒いてやる!(笑)」


『…マジ勘弁!
てゆーか、デジカメ没収ね?』


そう言うと、強制的に取り上げられてしまった。



ねぇ、隼人…


こんなことになるなら、写真イッパイ撮っとけば良かったね…。


あたしが強引にでも、隼人からデジカメ奪ってれば良かった?


隼人の写真は、キスをした写真と後ろ姿、そして笑顔しか残されていない。


もっとイッパイ、隼人の色んな顔を撮れば良かった。