『―――お待たせ。
で?話って何?』


スーツを着ていた隼人は、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきた。


『何よ、あれ!!
ヤクザじゃない!!
あたし、聞いてないよ?!』


隼人のいでたちに驚きを隠せない様子の香澄は、

あたしの服を引っ張りながら、その顔を青ざめさせる。



「…嫌なら良いよ。
アンタの覚悟は、所詮その程度だったと思うだけだし。」


怖気づいた香澄に、だけどあたしは冷たい目を向けた。



『…どーも、本田賢治ってモンです。
言っとくけど、ヤクザなんかじゃねーから。
まぁ、同じくらいヤバイけど。』


口の端を上げて言う隼人の目線は、まるで香澄を値踏みでもするように動く。


そんな隼人に香澄は、あたしの服の裾を握る手に力を込めた。



『…あの、あたしは安西香澄です…!』


『…で?
何で俺が呼び出されたの?』



本題に入った隼人に、香澄は先ほどと同じことを話した。


隼人は険しい顔を見せながらも、黙って聞き続けた。




『…で?
アンタはどーしたいわけ?』


『…出来ることなら、二人に復讐したいです…!』


「―――ッ!」


ハッキリと言った香澄の目に、迷いは感じられなかった。



“復讐”


こんな恐ろしいことを、普通に言うなんて。


こいつは、本当の“復讐”がどんなものか、全く分かっていない。


だけど香澄の決意にも隼人は、眉一つ動かさなかった。



『…あっそ。
なら、いくら出せる?
それによって、話は変わる。』


『あたしの貯金、50万くらいならあります。
それじゃ、足りませんか?』


戸惑いがちに言う香澄に、隼人は少しの沈黙の後、再びその瞳を見据えた。



『…まぁ、良いだろう。
引き受けてやるよ。
その代わり金払わなかったら、その時はアンタ、死ぬよ?』


『心配だったら、前金でお支払いします!』


すごむ隼人に、だけど香澄は声を上げる。


あたしなんかが口を出せることじゃないけど。


明らかに隼人は、香澄さえも利用しようとしている。