『―――酒井~!
この書類、記入しといて!!』


「…何ですか?」


仕事の終わり、マネージャーに呼び止められた。



『4月から社員になるんだろ?
今度面接あるから!』


「…あぁ。」



“あと1年頑張れば、社員になれる”


そんなことを思って働いていたが、すっかり忘れてた。



『心配しなくても問題ないって!
俺が推薦してるし!
“面接”っつっても、自己紹介程度だぞ?
それに、お前の働きっぷりは、社員と同じようなもんだしな!』


あたしが不安にでもなったと思ったのか、

マネージャーはあたしの背中をバシッと叩いた。


あたしのシフトは、毎日9時から5時。


最近は色々任されるようになり、社員と変わらないこともしていた。




「…すいませんけどその話、ナシにしてもらえますか?」


『ハァ?!何言ってんだ?!
あんなに頑張ってたのだって、社員になりたいからじゃなかったのか?!』


あたしの言葉に、マネージャーは眉をしかめた。



「…仕事だし、言われたことをキッチリやってただけですから。
それに、今は社員になりたいと思いません。
このまま、バイトのままじゃダメですか…?」



社員になれば、仕事時間は増え、おまけに不規則になる。


それに、突然休むことも難しくなる。


あたしは、隼人中心に回ってるから。




『…俺はどっちでも良いけど…。
勿体無いぞ?待遇も全然違うし。』


「…ありがとうございます。
でもあたし、お金の為に働いてるんじゃないですから…。」



あたしは、“普通”を忘れたくないだけ。



「…ホントにすいません。
マネージャーにはいつもお世話になりっぱなしなのに…。」


『…いや、良いよ。
気にするな。』



“マネージャー”と呼んだことに何かを察したのか、

それ以上は聞かれなかった。


そして一礼し、あたしは隼人の待つ家に帰った。