「志乃ちゃん、まだ遠藤先輩見てるの?」
放課後の2人きりになった教室で、莉奈があたしに問い掛けた。
すっかりオレンジ色に染まった教室。
2月ももうすぐ終わるのに、寒さはまだまだ健在で、あたしの素足の感覚を無くしていた。
「うん。まぁ……暇だしねー」
「……」
ついた嘘に、莉奈はもしかしたら気付いてるかもしれないけど。
それとも呆れてんのかな。
……まー、呆れるよね、この状況だったら。
あたしだって……とっくの昔に呆れてるし。
あんな振り方したどうしょうもない男が、未だに忘れられないなんて。
莉奈が遠藤先輩と呼んだのは、サッカー部のOBの遠藤哲郎。
なんかコーチ代わりに毎日うちの学校にきては、サッカー部の練習に夜まで付き合ってる変な男。
ってか、哲郎って地味な名前だし。
なに、哲郎。
普通すぎ。
あたしがぶつくさと心の中で文句を言う先で、哲は白い息を吐きながら楽しそうに笑う。
キラキラするような笑顔が、往生際悪いあたしの胸を締め付けた。