「ねぇ……あたし、よくバカって言うけど……」

「うん」

「それ、城田にしか言わないんだよ」

「……それ、キスの仕返し? 俺を傷つけようとしてる感じ?」

「違っ……」


ふっと耳元で動いた空気に、城田が笑みを零したのが分かって、あたしはそれを否定する。

少しだけ……

少しだけ、勇気を出さなくちゃ……


だって今日は――――……



「あたしの言うバカは……きっと、好きって意味なんだ……、と思う……。

好きって素直に言うのが恥ずかしいから……だから、代わりにバカとか、悪口みたいのが出てきちゃって……

本当は、照れ隠し、なの。

城田が好きとか言ってきてくれる度に、嬉しくて、でも素直には喜べなくて……それで……

だから、城田にしか言わな……」

「ちょっ……莉奈なんか食った?! なんだよ……なに? ドッキリ?! 

バレンタインドッキリ?! もしかして校内で放送とかされちゃう感じ?!」

「違うよっ!! だってっ……だって、今日はバレンタインだからっ……あたしも頑張って素直になろうって思ったからっ……」


城田の腕の中で顔を赤くするあたしに、城田の笑い声が届いて、あたしはますます赤くなる。


「莉奈照れてる? すっげぇ可愛いんだけど……もう一回だけキスしていい?」

「……バカ」

「百回くらいしてもいい?」

「……本当にバカじゃないの? 変態」

「莉奈……そんなに俺の事愛して……」

「違っ……!! 今のは本当に言ったの!! 城田が変な事ばっか言うからっ……」


あたしの肩を持って身体を少しだけ離した城田が、あたしを覗き込んで……優しく微笑んだ。


「俺も好きだよ」


『俺も』

その言葉を、あたしは否定しなかった。


素直じゃない言葉=好き。

城田にだけ伝わる、好きの気持ち。


城田の腕の中でなら、素直になれる気がした。


2度目の2月14日。

その日、2度目のキスをするあたし達を、オレンジ色の夕日が照らしてた。



 END