夜中…登喜子は窓から台風を見ていた。

僕は…思い出せる限りの思い出話をする。

そうしないと、今の残り少ない記憶さえ、消えて行ってしまいそうで…。

まるで手で水をすくうように…ほんの少しの記憶を残して、僕の人生が指の間から流れ落ちていく。

こうなるなら、もう少し君と話をすればよかったね…。

登喜子は…僕の話に頷くだけ。

きっと掠れた弱々しい僕の声は聞き取れない。

けれど登喜子は朝までずっと頷いてくれた。