「ちょ、ちょっと津久見さんっ。オレ、これはお返ししたはずですよ!?」

「お守り…夜だけでもしてると楽だよ。朝、学校に行く前に僕の家に寄ってくれれば外してあげるから」

「えっ、えっ、えっ?」

ほほ笑まれた瞬間、なぜかカアァァッと裕一郎の顔が赤くなる。

「仕事の妨げにならなければ大丈夫だよね?」

「そ、それはそうですけど…」


(この人に指輪を着けられるのって、何か分かんないけど、すげー恥ずかしい…)


どう反応していいか分からず、戸惑いを浮かべた顔でその場に立ちつくしてしまった。

そんな彼の心を知ってか知らずか…尚人は涼しい表情である。


「じゃあ、この騒ぎはこれでお終い。では河村さん、ここでの仕事内容等の説明をして頂けますか?」


「あ…あぁ…」


突然自分に話を振られ慌てて返事をした河村は、書類を取りにデスクに向かった。


(津久見尚人…さすが元・鬼の目を持ってただけあって、何事にも動じない性格って感じだな…)


彼を社員として採用した自分の判断は、果たして正しかったのか…今更ながら、河村は微妙な気持ちである。

気付かれないようタメ息をつくと、再び尚人の向かいに座り細かい説明を始めた――。




話しに入れない裕一郎は、昼食の後片付けをしておこうと食器を持って台所へ行く。

事務所から聞こえる2人の声。


(何だかんだ言って仲良さそうだよな、あの2人…)


河村に心強い存在が出来て、裕一郎は嬉しくなる。


(これに双瀬さんが加わったら、事務所は今まで以上に賑やかになるんだろうな…)


これからの日常を勝手に想像した彼は、1人そっと笑みを零したのだった…。


        ― 完 ―

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