ピンポーン
…とその時、玄関のチャイムが鳴った。
「昼休みなのに、お客さん…かな?」
「あぁ…多分、引っ越し業者が作業終わったから知らせに来たんだろ。悪い、裕…手が汚れてるから出てくれ」
「あ、うん」
裕一郎は持っていた玉子のパックをテーブルに置くと、玄関に向かう。
ガチャリ…ドアを開けた瞬間、目にしたものに彼の動きは固まった。
「こんにちは」
来訪者はニコリと微笑む。
「あ…こんにち、は…」
「今日、隣に引っ越してきたから挨拶に。河村さん、いるかな?」
「いますけど。ちょっと待ってて下さい」
まるで幽霊を見たかのような顔で、裕一郎は台所に戻る。
「久司、お客さん」
「引っ越し業者じゃなかったか…客って誰だ?」
「津久見さん…なんだけど」
「そうか…予定より少し来るのが早かったな」
河村は時計を見ると、ボソリ呟いた。
「えっ!?」
驚かないどころか、どうも約束をしていたらしい言葉に裕一郎はますますポカンとする。
そんな彼の横で河村は手を洗うと、玄関に向かった。
その後を裕一郎も慌ててついて行く。
「すみません、少し早いかなと思ったんですが」
「確か、1時過ぎにここへ来る予定じゃなかったか?」
「えぇ、そのはずだったんですが…荷物を運びこむのが予想外に早く終わったので、ご挨拶だけでも先に済ませておこうと思いまして」
そう言って、持っていた包みを河村に渡す。
「気を使うなと言ったはずだが…」
「大したものじゃないですよ」
尚人はニコリと笑った。
「じゃあ、また出直して来ます」
ドアが閉まりかけた瞬間、慌てて取っ手を掴むと、
「あぁ、津久見くん」
河村は声を掛ける。
「…はい?」
「もうすぐ昼食のサンドイッチが出来るんだが、良かったら食べていけよ」
事務所の中を指差して、彼は小さく笑った。
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