Darkness † Marker 5 【彷徨う者】


「バーカ、お前がすれば?」

軽く受け流すと、河村は傍らの棚からA4サイズの用紙を裕一郎に渡す。


「社員、募集…?」


それを見た彼は、不思議そうに呟いた。

「そ。表に貼り出す募集広告を作ってみたんだ。最近仕事は何かと忙しいし、お前も受験が近いしな…だから、社員補充しようと思って」

「えっ!?ちょっと待ってよ、オレ進学するつもりないからね」

河村の言葉に、裕一郎は慌てて答える。

「何言ってるんだ。せっかく勉強頑張ってるんだから、大学に行け」

「行かない!!」

「行けって言ってんだよっ」

「そんなの命令する事じゃないだろ。オレは高校を卒業したら、働くからな!!」

「裕一郎!!」

立ち上がった河村は、声を荒げると彼の腕をガッと掴む。

うーっ!!

2人は顔を突き合わせると、火花が飛び散る勢いで睨みあった。


「おいおい、河村…その辺にしとけよ」


何ですぐにケンカするかなぁ…双瀬はタメ息をつくと、間に入って体を引き離す。

だがその直後、河村が不敵に笑った。


「実はこれ、既に昨日の朝からビル1階の入口に貼ってあるって知ってたか?ふふん、抵抗した所でもう遅いかもな」


「なっ…オレですら気付かなかったんだ、そんなの誰も見てないって。今なら剥がせば間に合うはずだよ、絶対阻止してやる!!」


そう言うと、河村の腕を振り切った裕一郎は、事務所を飛び出す。


「何度剥がしたって、また貼り出すからな。やるだけ無駄だぞっ」


その背中に河村が声を掛けたが、聞こえたかどうかは定かではない――。

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