「でもお前に対してのあいつの優しさは、本物だと思うぞ。無償の愛…あぁ、羨ましいね」
「そう?オレからすれば双瀬さんは久司に頼られてて、羨ましいと思うけど」
それを聞いて、双瀬は大げさに肩を竦めた。
「違う、違う。あいつはおれで憂さ晴らししてるだけなんだって」
「憂さ晴らし…?」
「お前がさっきみたいな状態になったって河村は絶対に式神を出さないが、おれが少しでも気に入らない事を言ったりしたりすると、あいつはそれで報復してくるからな。お前もこの前見ただろう?蜘蛛を出して、おれを家の柱に括りつけやがったのを」
言われて、裕一郎は霊道騒ぎの後の出来事を思い出す。
「しかも今朝は今朝で、鬼を使っておれの所に思念憑きの絨毯を寄こしやがった…これが憂さ晴らしでなければ何なのか、おれは知りたいね」
「ぶっ!!」
勝手に想像して吹き出した少年に、
「そこは笑う所じゃないぞ」
双瀬は仏頂面で窘(たしな)めた。
「ご…ごめ、ん…」
ふるふると肩を震わせて笑いを堪える裕一郎の姿を見て、彼は微かに口端を上げる。
(少しは元気になったみたいだな)
ホッと胸を撫で下ろした所へ、河村が人数分のコーヒーを入れて戻ってきた。
無言でそれぞれのカップをテーブルの上に置くと、
「お前、さっき伝言があってここに来たって言ってたよな」
タバコに火をつけながら彼は双瀬に尋ねる。
「何だ、いきなり本題に入か?せっかく雑談を楽しんでたってのに…」
「ここは仕事場だ、雑談なら寺でしろよ」
河村は少し不機嫌めいた声を出した。
それとは対照的、双瀬はどこか面白がっている表情だ。
「…あーあ、本当にお前はつまんねー男だなぁ…ま、いいや。お前、ここのビルのオーナーに空き部屋の件で問い合わせてただろ」
「何でお前がそんな事、知ってるんだ」
彼は怪訝そうに聞き返した。
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