Darkness † Marker 5 【彷徨う者】

        ☆

2人が事務所に戻ったのは、昼をとっくに過ぎた頃だった。

中途半端な昼食になるので、とりあえずの腹ごしらえと河村が素麺を茹でる。

それを食べ終え、一息ついた所で裕一郎は疑問をぶつけてみた。


「ねぇ」


「何だ?」


ゆったりとソファの背に凭(もた)れ寛いでいた河村は、目を瞑ったまま返事をする。

「津久見さんと、いつ会ったの?」

「うーん。さぁな…会ったことあったっけな…」

「しらばくれんなよ。会った事のない人間が『お久しぶりです』なんて言葉、使う訳がないだろ。オレに黙っていつ会ったんだよ」

「そう言われても、記憶…ないんだけどなぁ」

相変わらず、飄々とした態度。


「オレ、真面目に聞いてるんだけど」


「俺だって真面目に答えてるさ。年を取ると、若い頃みたいに何でも覚えてられないんだよ。だから昔の事は忘れた。おっさんの脳は、今日の事だけで記憶の容量はいっぱいいっぱいなんだよ」


「…」


やはりいつもの調子で、聞きたい事をはぐらかされる。

せめて真面目に答えてくれればいいものを、そのいい加減な受け答えに、裕一郎はイラッとするものを覚えた。

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