Darkness † Marker 5 【彷徨う者】


「?」

2人のやりとりを側で聞いている裕一郎は、首を傾げる。


(何だ、この会話…もしかしてこの2人、オレの知らない所で会った事がある?)


どう見ても初対面には見えない。

大体それだったら『お久しぶり』という言葉は使わないだろう。

でも、いつ会ったのか…2人を結ぶ接点が見当たらない。


(これは後で問い詰めてみないとな)


密かに思った裕一郎だった。


「あ、そうだ。これを裕一郎くんに渡そうと思って」


そう言って尚人がポケットから出したのは、見た事もない指輪だった。

「えっ…これって、もしかして…」

「そう、あの女性が探していた指輪だよ」

「どこにあったんですか!?」

「偶然、これを事故現場で拾った人に出会ったんだ。だから預かってきたんだよ、はい」

尚人は裕一郎の手に握らせた。

「返してあげるんだよね?」

「そうですけど、でも津久見さんが見つけたのにオレが返す訳には…」

「裕一郎くんも探していたんだから、いいんじゃないかな。それに悪いんだけど、僕はこれから約束があってそっちに行かなくてはいけないんだ。だから、これは君が返してあげて。河村さんがいるから、安心でしょ?」

尚人はチラリと河村を見て、笑った。


「それじゃあ、失礼します。またね、裕一郎くん」


そう言うと、2人を残して去って行った。

「今度こそ本当に行っちゃったね…」

もう何だか永遠に手の届かない人のように思えて、名残惜しいという気持ちにもならない。

スラリとした後ろ姿を見送った後、


「久司…これ、どうやって返したらいい?」


裕一郎は手の中にある指輪を見て呟いた。

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