「?」
2人のやりとりを側で聞いている裕一郎は、首を傾げる。
(何だ、この会話…もしかしてこの2人、オレの知らない所で会った事がある?)
どう見ても初対面には見えない。
大体それだったら『お久しぶり』という言葉は使わないだろう。
でも、いつ会ったのか…2人を結ぶ接点が見当たらない。
(これは後で問い詰めてみないとな)
密かに思った裕一郎だった。
「あ、そうだ。これを裕一郎くんに渡そうと思って」
そう言って尚人がポケットから出したのは、見た事もない指輪だった。
「えっ…これって、もしかして…」
「そう、あの女性が探していた指輪だよ」
「どこにあったんですか!?」
「偶然、これを事故現場で拾った人に出会ったんだ。だから預かってきたんだよ、はい」
尚人は裕一郎の手に握らせた。
「返してあげるんだよね?」
「そうですけど、でも津久見さんが見つけたのにオレが返す訳には…」
「裕一郎くんも探していたんだから、いいんじゃないかな。それに悪いんだけど、僕はこれから約束があってそっちに行かなくてはいけないんだ。だから、これは君が返してあげて。河村さんがいるから、安心でしょ?」
尚人はチラリと河村を見て、笑った。
「それじゃあ、失礼します。またね、裕一郎くん」
そう言うと、2人を残して去って行った。
「今度こそ本当に行っちゃったね…」
もう何だか永遠に手の届かない人のように思えて、名残惜しいという気持ちにもならない。
スラリとした後ろ姿を見送った後、
「久司…これ、どうやって返したらいい?」
裕一郎は手の中にある指輪を見て呟いた。
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