河村に聞かれて、初めて裕一郎は蝶の気配がどこにもない事に気づいた。
「つまりそう言う事だ」
「そう言う事って…」
「過去の記憶や景色を見せるのは、式にとって相当エネルギーがいるって事だ。あれは器が小さかったからな、駅からこの辺りまでを見せるので限界だったんだろう」
「えっ、じゃあ…式の気配がなくなったのって」
「力を使いきって、式自身もこの世界から消えてしまったって事だ」
「…」
河村の言葉を聞いて、彼は呆然とした。
まさかそんな事になるとは知らなかった。
式の存在が無くなるなんて考えもしなかったから。
決して言うことを聞いてくれていた訳ではなかったが、それでも河村や裕一郎のために動いてくれていたのは確かな事実だ。
「ごめん…オレ。知らなかったとは言え、式に悪い事した」
「あれが自らお前の為にしたんだ、何だかんだ言っても主人だと思ってたんだよ」
「…消えたら、その式はどうなるんだ?」
「あぁ、復活できない事もないだろうが、出来るにしてもしばらくはこっちの世界に戻っては来るのは無理だろうな」
「そっか」
元気なく呟くと、河村に髪をくしゃりと撫でられる。
「…何だ、呼び戻したいのか?」
「ううん、それはない…けど、嫌いじゃなかったなと思って」
そう答えると、裕一郎は寂しそうに笑った。
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