すると、その人物…女性はギクリと顔を強張らせ、動きを止めると右手を下ろす。
「な…何か…?」
見知らぬ青年の登場に、彼女は警戒して両手をサッと体の後ろに隠した。
年の頃は20代後半くらい、だろうか。
長くて真っ直ぐな髪を後ろで1つに束ねていて、化粧っ気の全くない地味な雰囲気だった。
この近くに住んでいるのか、足元を見るとヨレた感じのサンダルを履いている。
それに服装もこれから出かけるという感じのものではなかった。
まるで突然思いついてこの場所に来たような、そんな雰囲気…。
「線路に向かって物を投げ込んではいけませんよ」
尚人はやんわりと注意をした。
「わ、私はそんな事…何も…」
彼女はふいっと横を向く。
「そう?でもあなたの右手は、何かを握り締めてる」
「……」
「ひょっとして…その手の中にあるものは《指輪》では?」
「な、何のことですか?私は指輪なんて、知りません!!」
怒った顔でそう言うと、足早に歩き出した。
「では、あなたが握りしめているものを見せてもらえませんか?」
尚人もその後をついて行く。
「何も持ってないって言ってるでしょう!? ついて来ないで下さい。これ以上おかしな事を言うんだったら、警察を呼びますよ」
「結構ですよ…でも、警察が来て困るのはあなたの方だと思いますけど」
「!!」
その言葉に、彼女は足を止めた。
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