Darkness † Marker 5 【彷徨う者】


すると、その人物…女性はギクリと顔を強張らせ、動きを止めると右手を下ろす。


「な…何か…?」


見知らぬ青年の登場に、彼女は警戒して両手をサッと体の後ろに隠した。

年の頃は20代後半くらい、だろうか。

長くて真っ直ぐな髪を後ろで1つに束ねていて、化粧っ気の全くない地味な雰囲気だった。

この近くに住んでいるのか、足元を見るとヨレた感じのサンダルを履いている。

それに服装もこれから出かけるという感じのものではなかった。

まるで突然思いついてこの場所に来たような、そんな雰囲気…。


「線路に向かって物を投げ込んではいけませんよ」


尚人はやんわりと注意をした。

「わ、私はそんな事…何も…」

彼女はふいっと横を向く。

「そう?でもあなたの右手は、何かを握り締めてる」

「……」

「ひょっとして…その手の中にあるものは《指輪》では?」

「な、何のことですか?私は指輪なんて、知りません!!」

怒った顔でそう言うと、足早に歩き出した。

「では、あなたが握りしめているものを見せてもらえませんか?」

尚人もその後をついて行く。

「何も持ってないって言ってるでしょう!? ついて来ないで下さい。これ以上おかしな事を言うんだったら、警察を呼びますよ」



「結構ですよ…でも、警察が来て困るのはあなたの方だと思いますけど」



「!!」


その言葉に、彼女は足を止めた。

.