Darkness † Marker 5 【彷徨う者】

        ☆

尚人はホームの柱に凭(もた)れている人物の様子が気になって、少し離れたところか見ていた。

ずっと俯(うつむ)き、手元に視線をやったまま電車が入ってきても乗ろうという素振りすらみせない…駅ではかなり不審な姿に映る。

時々辺りを落ち着きなく見回し、人の姿があると顔を隠すように下を向いた。

何かを探しているようにも見えるし、警戒しているようにも見える。

どう見てもその人物は全く電車に乗る意思がない、という事だけは確かなようだった。

それは荷物を1つも持っていない事からも推測出来る。


…と、人の姿が途切れた時、その人物は行動を移した。


両手を額の所で合わせて祈るようにすると、何かを握りしめている右手を線路に向けて振り上げたのである。


「すみません」


「!!」


尚人は駆け寄りながら、声を掛けた。

.