Darkness † Marker 5 【彷徨う者】


その瞬間、強い風が吹いた。


(えっ…!?)


突然アナウンスも何もないまま、ホームに電車が入ってくる。

それと同時、いつもと違うタイミングでブレーキのかかる音が辺りに響き渡った。

酷く違和感のある金属音。

混じる鈍い音。

一瞬、ホームが水を打ったように静まり返った。

何が起こったのか全く分からずじっと立っていると、女性の悲鳴が上がりホーム全体が騒がしくなる。


「?」


と、キラリ視界に光るものが裕一郎の足元に転がってきて止まった。

それを見て、彼は息を呑む。


(指輪!?)


その思考に反応するように、蝶が羽根を閉じた。


(まさか、これは事故の時の…景色…)


式が見せているのだろうか。

こんな力を持っているのだろうか。

過去の映像を見せられてもどうしていいのか分からず、彼は戸惑った。

駅員が騒ぎを駆けつけ走ってくる。

野次馬が列車の前方に集まりはじめホームが雑然とする中、裕一郎は指輪が気になり、再び足元に視線をやる。

…と、騒ぎに紛れた中からスッと伸びてきた手が、それを拾い上げるのを見た。



「あっ!!」



思わず声が出た。

当然だが、周りに見えている景色は幻影だ。

裕一郎の声が届く訳でもなければ、触ることも出来ない。


彼は振り向いた。


指輪を拾った人間がいる。

この場所から持ち去った者がいるのだ。

だからあの霊は探していた…現場から消えてしまった自分の持ち物を探して、裕一郎に訴えてきたのだ。


(追わないと!!)


あの様子だと、警察に届けた風はない。

見失ったらもう2度とこの光景を見れないような気がした。

それは少し足早に去っていく、人ゴミに紛れる髪の長い女性の後ろ姿。

本当は尚人に言ってから追いたかったが、そんな暇はない。


(せっかく会えたのに…)


少し残念に思いながらも、裕一郎は地上への階段を駆け上がった。

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