その瞬間、強い風が吹いた。
(えっ…!?)
突然アナウンスも何もないまま、ホームに電車が入ってくる。
それと同時、いつもと違うタイミングでブレーキのかかる音が辺りに響き渡った。
酷く違和感のある金属音。
混じる鈍い音。
一瞬、ホームが水を打ったように静まり返った。
何が起こったのか全く分からずじっと立っていると、女性の悲鳴が上がりホーム全体が騒がしくなる。
「?」
と、キラリ視界に光るものが裕一郎の足元に転がってきて止まった。
それを見て、彼は息を呑む。
(指輪!?)
その思考に反応するように、蝶が羽根を閉じた。
(まさか、これは事故の時の…景色…)
式が見せているのだろうか。
こんな力を持っているのだろうか。
過去の映像を見せられてもどうしていいのか分からず、彼は戸惑った。
駅員が騒ぎを駆けつけ走ってくる。
野次馬が列車の前方に集まりはじめホームが雑然とする中、裕一郎は指輪が気になり、再び足元に視線をやる。
…と、騒ぎに紛れた中からスッと伸びてきた手が、それを拾い上げるのを見た。
「あっ!!」
思わず声が出た。
当然だが、周りに見えている景色は幻影だ。
裕一郎の声が届く訳でもなければ、触ることも出来ない。
彼は振り向いた。
指輪を拾った人間がいる。
この場所から持ち去った者がいるのだ。
だからあの霊は探していた…現場から消えてしまった自分の持ち物を探して、裕一郎に訴えてきたのだ。
(追わないと!!)
あの様子だと、警察に届けた風はない。
見失ったらもう2度とこの光景を見れないような気がした。
それは少し足早に去っていく、人ゴミに紛れる髪の長い女性の後ろ姿。
本当は尚人に言ってから追いたかったが、そんな暇はない。
(せっかく会えたのに…)
少し残念に思いながらも、裕一郎は地上への階段を駆け上がった。
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