地下鉄のホームに下り立って、裕一郎はおかしなことに気づいた。


(あれ、何でこんなに人が多いんだ?)


普通だったらまだ早い時間なので、ここまで込み合うことはない。

なのに、この日は様子が違った。

週末なのに、やけに人でごった返している。

ゆっくり座れると思っていたので、当てが外れてガッカリした。

こんなことなら普段の遅い時間帯でも良かったな…そんなことを思いながら、乗車の列の最後尾に並んだ。


ざわざわ、ざわざわ。


他の人たちもおかしいと思っているのだろう、何となく落ち着かない様子である。

その時。

裕一郎が辺りを見回していると、構内アナウンスが流れた。


『ただいまA駅で人身事故が発生、そのためダイヤに乱れが生じております』


その知らせにホームがざわめく。

それを聞いてなるほどと納得する。

「でも…バスだと厳しいな…」

運行本数が少ない上に恐ろしく遠回りな路線しかなく、しかも朝の渋滞は半端じゃない。

いくらまだ早い時間とは言え、今から行くとギリギリ…もしくは間に合わない可能性は大、だ。

腕時計にチラリ視線をやって裕一郎は呟くと、ここに居ても仕方ないと判断する。

次第に混雑してくるホームを避けるため、地上への階段に向かいながら携帯を取り出した。

本当は迷惑をかけたくないのだが、朝自分を送りだしてくれた久司に車を出してもらうよう頼むしかない。

親指をリダイヤルのボタンにかけた時、同時に背後から肩を叩かれた。

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