困ったな。


繰り返し、隅々まで丁寧に探す。
お気に入りの文庫本だ。

取りに戻るべきだろうか。


……でも。あの棟には、ハルコの学科の研究室が、ある。


なおも探しながら迷っていると、表通りを走るエンジン音の一つが、こっちに走って来るのが聞こえた。
数メートルほど離れた場所に、不要な空ぶかしをして、停車する。


なんなの?


耳障りな爆音に、イラッとしながら顔をあげる。

大学ではバイクなんて珍しくもなんともない。
けれど、合図なのか何なのか、こんな迷惑なことをするのは見たことがなかった。