たった…、たったそれだけ?
「大崎先輩は暴力を受けていたこと、大切な人を傷つけてしまったこと、その辺のことは全部隠してた。ただそのときの彼女の様子で、大きなものを抱えてるんだと悟ったんだ。」
そして、沢柳先輩が続ける。
「まだそのときは俺たちとの間に、すべて話せるほどの信頼関係を築いてなかったからな。…俺たちもお前と同じ、あのバスの中ですべてを知った。」
今の俺に、周りの音なんて聞こえない。目の前の二人の声だけがやたらと耳に響く。
そんな中、「それにね…、」と、村田部長が再び口を開いた。
「何かあるって、俺たちは気づいただけ。大崎先輩が無理して笑っているのを知っていたのに、俺たちは何にもしてあげられなかった。」
悔しそうにそう言う村田部長の表情が、今まで見たこともないくらい悲しく歪んでいた。

