部屋に入ると、やっぱり永輝さんとの思い出はそのままだった。

カギをかけていない部屋。

小さなテーブルを占領している灰皿。



「……本当は何か用があったんじゃないの?」



目の前に座る柚羽さんがイタズラっぽく突っ込んできた。

図星だっただけに、僕はそれを素直に認めた。



「泣いてるんじゃないかと思って。柚羽さんにとって、辛いことばかりだったから」



柚羽さんはコーヒーを黙って飲んでいる。

重苦しい空気が僕たちを包んだ。



「そうね。泣いたよ。永輝が死んだことも、かんなさんと結婚することも知って」



当然の感情だ。

いろんなタイプの人間がいるけれど、こんな状況の中で冷静になれる人なんているわけがない。