掻き鳴らせ、焦燥。〜春風に舞う〜



そう云って、生徒の前で平然とタバコに火を着ける。職員室が禁煙になってからと云うもの、この人は準備室からほとんど出なくなった。



先生は大学時代にジャズバンドを組んでいたらしく、ジャンルは違えど同じベーシストとして話の通じる相手だった。



「新しいバンドは決まったのか?」


「いいえまだ。と云うか、当分バンドはいいかなって思ってます」


「ひとりで弾いても楽しくないだろ?」


「はぁー、でも合わないバンドで弾いても楽しくありませんから」


「合うバンドを探そうとは思わないのか?」


「いれば、いいんですけどね……」


「やめるなよ、ベース」


「練習はしてますよ、ちゃんと」


「そっか。まぁ、オレは自分がやめて後悔してるから云うだけだけどな……」