車の中で会話はなかった。


あたしはずっと外を見ていたし、満はそんなあたしに気を使ってくれていた。


「ここで降ろしてくれ。」


突然満が運転手に指示した。


屋敷まで後数キロある。


「歩くぞ。」


「え?」


「いいから。」


車から降ろされ、夜道を歩いて帰ることになった。


「どうしたの?」


「いや、デートらしいことしてなかったから。
ここからなら歩いて20分もかからずに着くだろ。」


「ふふっ何それ。」


呆れ気味に言ったが、本当は少し嬉しかった。
あたしも歩きたい気分だった。


夜道の風は心地よくて、星も出ていた。


一メートル置きに植樹されている桜の木が、私達を歓迎するかのように、

木の枝から星を写しだし、一足早いクリスマスのイルミネーションのようにキラキラ光っていた。



「帰りたくなったら、いつでも帰っていいからな。
ただし、戻って来いよ。」


「戻って来なかったら、寂しいんでしょ。」


「当たり前だろ。」


からかったつもりなのに、素直に返されてしまって、逆に戸惑ってしまった。