それ以上言葉が出なかった。
お父さんも頑張ってるんだ。
皆、頑張ってたんだ。
変わらないな、この家は。
ボロいけど、あったかい。後ろでわぁわぁ相変わらず弟達が喧嘩してて、それをお兄ちゃんが怒鳴って止めて……
一時も静かな時間はないけど、これが幸せっていうんだろうなって改めて感じた。
「あの、失礼とは充分承知しておりますが…」
お母さんは姿勢を正して、正座して満と向き合った。
ん?なんだろ?
「金剛持さん。
娘を返していただけないでしょうか。」
突然のお母さんの言葉に、あたしと満は絶句した。
「退院して家に戻った時、皐月がメイドとして金剛持家に働きに行ったと聞かされました。
それを聞いた時の、私の驚きと怒りは……とても表現できないです。
どれだけ夫を怒ったことか。皐月が一人で働いているなんて、想像しただけで涙が出ます。」
お母さんは涙で言葉を詰まらせながら、金剛持財閥の息子に物怖じせずに訴えた。
満は正座をして、真剣な面持ちで真っ直ぐにお母さんの瞳を捉えた。
「この子は、勝気なところがありますが、寂しがり屋な子なんです。
どうか、お願いです。
娘を私に……家族に返していただけないでしょうか。」
隣に座っていたあたしの肩を引き寄せた。
肩から伝わる手の震えと、お母さんの想い。
あたし、いっぱい心配かけさせちゃったんだ……
横顔を見ると、少し頬がこけている気がした。
「お母さん……」
お母さんは目に涙をいっぱい溜めて懇願した。
お母さんがそんな想いでいたことなんて知らなかった。
後ろで喧嘩していた兄弟も黙って事の成り行きを見ている。



