FAKE‐LAKE

「……嫌みだな」

青年はほとんど黒に近い、濃い焦げ茶色の瞳で彼を睨んだ。不揃いな長い前髪に右目が半分位隠れている。

「たまにはセティの手料理が食いたいと思ったのに」

「俺はお前の奥さんじゃないぞ、アツキ」

そう言って銀縁眼鏡の彼はコンピュータの電源を落とした。

セティとは愛称で、フルネームはセトナ・ヴァイナス・ウェルズリーという。大抵の場合すぐに『あのウェルズリー家の』と返される程ロスタナでは一目置かれる名前だが、持ち主は自分の名前を毛嫌いしている。

「アツキ・シノナガ君。人に物を頼むときには、『セトナ様お願いします、ご飯を作ってください』と頭を下げるものだろう? それが俗に言う礼儀というものだぞ」

「出来るか、んな事!!」

アツキは椅子から立ち上がり、大声で叫ぶ。

「もういい、好きなだけ冷蔵庫荒らしまくってやる」

「そうしろ」

無表情で答え、セティは着信ランプが光った受話機に手をのばした。二番か、と小さく呟く。

「アツキのやる気を高めるために、今度最高級のセキュリティを冷蔵庫にかけといてやるな」

「いるか! そんなもん!」

バタンと乱暴に扉が閉まった後、セティはゆっくりと通話ボタンを押した。

「はい……ああ、お待ちしておりました、フロスト博士」