FAKE‐LAKE

「悪いけど、すぐに心の整理がつかない。だから時間をくれないか」

セティは立ち上がり、頭を下げた。

「無理な頼みですまない、アツキ」

アツキは深く息をつき、目をつぶる。ドアに手をかけたセティの方を見ずに続けた。

「三日後には答え出すから、それまで一人で考えさせてくれ」


その晩、アツキは眠れなかった。

“商売道具”に二度と触れないと決意するまでの苦労を無駄にしたくない。何より、リーナとした約束を破りたくない。

断ろうと思うのに、殺された兄の姿を何度も思い出した。

『兄さんお願いだよ、僕も……僕も一緒に連れてって……!』

腫れ上がった顔、血まみれの服、体温を失った大きな手。兄が受けただろう仕打ちを想像し、アツキは思わず身震いした。

同じ目に遭わされている少年がいる……。

真夜中、不意に起き上がりアツキは着替えた。“仕事”の時に着るいつもの黒い服。

震える手が『封印』を解いた。考えるより先に体が動いていた。

肩から斜めに掛けた商売道具の上に、闇夜にまぎれる黒い上着を羽織る。