FAKE‐LAKE

「よくも……」
 アンジェの左手が凶器と化す寸前、レイがぽつりと口を開いた。
「アンジェ……?」
 博士の心臓を狙っていた視線が声の方へと揺れ、アンジェに一瞬隙が出来る。
 彼が視線を戻すより早く、博士はレイのこめかみに銃を突き付けていた。
「手を下ろせ」
 アンジェは息を飲んだ。レイは状況が分かっていないのか怯えもせず、ぼんやりした瞳でアンジェを見ている。
「手を下ろせ。でないとこいつを撃つ」
 博士はぐいとレイに銃を押し付ける。
 アンジェは悔しそうに手を下ろした。どうしてすぐに撃たなかったのだろうと後悔する。
「左腕を横に上げろ」
 レイに銃を向けたまま博士は命令する。アンジェは博士を睨みつけ、ゆっくり左腕を上げた。
「いい子だな、アンジェ」
 ニヤリと笑みを浮かべ、博士は銃をアンジェに向けた。
 立て続けに銃声が響く。
「ぐっ……!」
 横に上げていたアンジェの左腕がだらりと下がった。手の平と二の腕、肘の少し下から真っ赤な血が流れる。
「自分の作った機械の弱点位把握している」
 博士は動かなくなった左腕を押さえて呻くアンジェを見て笑った。
「これでお前は使い物にならなくなった。作った者の責任としてきちんと始末してやる」
 博士はアンジェに銃を向けたまま命令する。
「立て。一息で楽にしてやる」
 悔しさと憎しみに震えながらアンジェは立ち上がった。
 博士は病を抱えた心臓に狙点を定める。カチリと音が冷たい壁に響き、もう駄目だとアンジェは覚悟した。
 刹那、二人の間に舞い込んだ白い影。
「レイ!」
 意識がアンジェに集中していた博士の腕をすり抜け、レイはアンジェの前に立ちはだかった。
「この人、撃つ、駄目」
 虚ろな瞳のままアンジェを庇うレイに、博士は心底驚いた。
「お願い、この人、助ける」
 つ、と黄緑色の瞳から涙が一筋流れた。