FAKE‐LAKE

 博士はレイを肩に担いだ兵に命令した。
「目立たないよう夜が明ける前にロスタナに入れ。基地に着いたら牢に入れておけ」
「博士は」
「すぐ戻る。アンジェを確認したらな」
 兵が先に戻るのを見送り、博士はアンジェの家に入った。
「どうだ」
「印はありませんでした。人違いかと」
 そうか、と博士は呟き、眠っているアンジェに近寄った。薬が効いてきたのか、大分楽そうに息をしている。
「……博士?」
 しばらく黙ってアンジェを見つめていた博士はふっと息をつき、自分を不思議そうな表情で見ている“医者”に言った。
「まあいい。レイを捕獲出来ただけ上出来だ。ただ、レイを脅すための人質として引き続き監視しておけ」

 誰一人気づかなかったが、一部始終を遠くから隠れて見ていた人物がいた。
 引き返していく博士達の姿に、彼――セティは唇を噛む。
「一足遅かったか……」
 監視がいるためアンジェには近づけない。
 今あそこに普通に入れるのはニールだけだ。アンジェの様子を知るには彼に頼むしかない。
 セティは博士たちとは別方向を通り、次の手を打つため帰路を急いだ。


 真夜中、アンジェは目を覚ました。薬を飲んだ後のように体が楽になっている。痛みがひどくなってからの記憶がない。
「どうしたんだろう……?」
 ゆっくり起き上がる。テーブルの上にあるランプの明かりがゆらゆら揺れていた。
 その近くにある薬の袋。
「……レイ?」
 しんとしている家に嫌な予感がして、アンジェは立ち上がった。
「レイ、どこにいる?」
 返事は返って来ない。微かな物音すら。