FAKE‐LAKE

 タンスから探し出したニットの帽子を深く被り、髪を隠す。
 太陽は地平線に姿を隠し、濃さを増していく紺色が朱い残照を飲み込み始めている。
 暗ければ瞳の色は目立たないだろう。
 レイは窓ガラスに自分の姿を映した。
 ぶかぶかなアンジェの古い上着、目元まで深く被ったダークグリーンの帽子。その下の不安そうな瞳に言い聞かせる。
「大丈夫。……信じろ」
 レイはソファーで眠っているアンジェに声をかけた。
「アンジェ、待ってて。必ず薬を貰ってくるから」
 紫紺から漆黒に移りゆく空。外へ足を踏み出したレイは、いつもニールが帰っていく方向へと走り出した。
 後ろから、黒い影につけられているとは知らずに。

 暗くなっていく森をひたすら走る。
 途中息が続かなくなり一度立ち止まった以外、レイはずっと走り続けた。
 街に下りたら、ニールを探そう。小さい街だって言うからきっと誰かは知ってるはず。
 突然頭上でバサバサと音がしてレイは振り向いた。闇夜を大きなフクロウが悠々と飛んでいく。
 レイは不安を振り切るように走った。
 初めて人前に姿を現す不安より、アンジェを失う怖さの方が大きくて。
 アンジェ死なないで。僕が戻るまで頑張って。お願い……


 どれくらい走っただろう。眼下に明かりがついた家並を見つけたレイはほっとして足を早めた。