赫いロールシャッハ【短編】



外は木枯らしが冷たく、しかし誰よりも優しく頬をなぜる。




ふと、異なる冷たさを感じる部分に気付き、頬を拭うと赫い絵の具が手の甲に引き伸ばされた。


「まだ、乾いていないのか……アッハッハッハ……」


そう云って、上げた笑い声は深夜の路地裏で奇妙に響く。




その笑い声をすくい取るように吹き上げた風はまた、頬に伝う冷たさを誇張させた。


「あぁ、これは『嬉し涙』って云うんだっけな」


初めて流した、その滴はそのまま風にさらわれて消えた。


「なるほど、自ら拭う必要はないのか……」


そう教えてくれているようで、冷たさはムネの奥を温めて、何も云わず去って行った。