「…行こうぜ、万桜。旬磨も。」
呆れたような表情のまま、ヒロ先輩はその人に背を向けた。
「も~宏慶ったら、紹介してよ。」
そんな事など気にしない、とその人は続けた。
「ねぇ、この子なんでしょ。」
いつの間にかヒロ先輩の両手はグーを握っている。
「万桜は俺の彼女だよ。俺ら付き合ってんの。そんな事関係ないだろ。」
初めて聞いた、こんな冷たい話し方。
そしてみるみる目が吊り上がるその人。
アタシを舐め回すように見つめる。
イヤだ、なんかイヤだ。
うつむいて、口許を手で覆った。
ドキドキドキドキして、泣きそうだった。
「万桜…。」
ヒロ先輩の声が聞こえた。
そしてアタシの肩に優しい手をかけた。
いつの間にか近付いて来てくれていた。
「行こ。」
肩から背中に移った手に少し力が入り、アタシの足が前に出る。
「宏慶!」
振り返る事なく歩き続ける。
アタシはうつむたまま。
旬磨先輩がいつものように、隣りを歩いていたのも、気付かずに。

