万桜、来てくれるかな?

昨日はメールの返事はなかった。

風が強い屋上は、誰もいなくて俺と、梓だけ。

さっき梓に『ちょっと来て』と呼び出した。

「イヤーすごい風!スカートめくれちゃう!」

昨日の岩城コーチに言われた事を何とも思っていないのか、梓ははしゃいでいる。

「なぁ、マネージャーの事さ……。」

あはは、と笑う。

「ズルズルしちゃって、どうしようかと思ってたの。サッカーなんて興味なかったし。あず、ヒロと一緒にいたかっただけで――。」

それ以上俺の耳に梓の言葉は届かない。

きっと今、ため息をついた事も気付いてないだろう。

ギギッ、と音がして扉がゆっくりと開いた。

万桜、来てくれたんだ。

梓の存在に気付いて一瞬足が止まりそうになったが、俺だけを見つめゆっくりと近付く。

万桜の瞳に俺が映って、俺の瞳にも万桜だけがいた。