誠司との結婚が決まり、結婚式の話題になったとき。

私は自然と、ヴェッキオ宮で式を挙げたいと言っていた。

ここじゃないと、いやだ、とさえも。


でも、たかが挙式なのに、様々な公証手続きを要すると知った誠司は渋い顔をした。

その顔を見て、私はやっと、聡との思い出から現実に引き戻された。


『ごめん、やっぱ面倒だよねぇ』


笑う私を見て、安心したような表情を浮かべた誠司。


それから、ヴェッキオ宮での挙式はなくなり……。

そして、フィレンツェの町での挙式そのものも消えていき……。