2LDKのお姫様

夕方の帰り道。2人歩く影。


「大くんそういえば何か用事あるみたいな独り言を言ってなかった」


「そうだったか」


あの緊張感から解放されて、今の大の心は風に舞う綿花のようにフワフワである。


「じゃあ大くん、わたしはあっちだから、また明日」


「ああ。また明日」


影は2つに別れた。


「俺、独り言なんて言ってたか」


大は1人、さっきの紺野の言葉を思い返していた。


独り言なんて言うはずは無い。
そんなヘマはしない。


「まったく紺野もいい加減な。用事なんて今日はシオリさんと……」


気付けば独り言を言っている。


「シオリさんと……、まさか。俺が忘れるわけ……」


今日は3時からシオリと買い物の約束をしていた。


しかも、家をでる前に得意気に「すぐ帰るから心配ないよ」と出てていた。


「あははは」


笑わずにはいられない。
すでに5時過ぎ。


大は風のように物凄い速さで、坂を走り駈けて行った。


その姿は、いと哀れなり、だったと言う。