落下点《短編》

触れなかった体温。
触れられなかった温度。


何度も、押し付けるようにキスをした。

何度も、何度も。全部の気持ちをぶつけるみたいに。不安だった。押しつぶされそうだった。もう止められなかった。

…言ってしまったら、口に出したら終わりだとわかっていたのに。

もう戻れないの?あたしたちは、もう。


戻る道なんて、振り返ればぶつ切れていて、それでもあたしは呪文みたいに唱えるんだ。


…もう、戻れへんの?陣ちゃん。



一方的だったそれに向こうからも重みが加わって、世界が反転した。

玄関口で、崩れ落ちるように重なり合う影。

ドサッと落ちた体重に、玄関の床がきしむ。

固くて冷たい床。

陣ちゃんの手を握る。握り返される。

肌に触れた外気と、陣ちゃんの体温。


冷たい、熱い。熱い、冷たい。


…陣ちゃん。


陣ちゃんの背中にしがみついた。身体全部彼を求めた。ややこしいものを、まるで全部引き剥がしたら、そこに残るのは、ただ陣ちゃんに触れたい気持ちだけで。

涙が止まらなくて、深いキスはしょっぱい味がした。

あたしに触れる手は、酷く優しい。優しすぎて、痛い。


陣ちゃん。

陣ちゃん。

陣ちゃん、ごめんね。


陣ちゃん、好きだよ。


陣ちゃん、ありがとう。



ごめんね。



「…朋美…っ、」


目の前には、滲んでブレた陣ちゃんの顔。

あたしの首筋に、あたしのものとは違う、涙が落ちた。

陣ちゃんの、愛しいひとの、なみだ。



朋美。


陣ちゃんは、もう一度あたしの名を呼んだ。


あたしはこの時、きっともう、最後なんだと感じた。


それが、陣ちゃんがあたしを呼ぶ最後だったんだと。





「……別れよか」





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