落下点《短編》


頬の上で、拭ったはずの涙のあとがうずく。

そんなこと言われるとは思わなかった。気づかれるとは思わなかった。

笑おうと思ったけど、笑えなかった。


笑顔になるどころか、顔が引きつっていびつに歪んだ。


「……陣ちゃん」



──陣ちゃん。



「…ん?」

「…今日、な。今までにデジカメで撮った写真、現像してきたんやん、か…」


カツン、て、陣ちゃんの革靴が角に当たる音がした。

あたしと目が合う。
少し垂れ目がちの優しい瞳が、あたしを映している。


今にも崩れてしまいそうな、あたしを。


「…クリスマスのイルミネーションが、一番最初の写真やった。」

「………」

「あと…春に、お花見行った写真とかな。夏の旅行とか…ほんま、アホなんばっかで…っ、」


あたしたちは向かい合っている。同じ空間。なのにそれは中央で線引きされたみたいに、ふたつに分かれている。

気持ちを声に出してみれば震えていて、涙がぽろぽろと溢れた。止まらなかった。


陣ちゃんは黙ったまま、あたしの話すのを聞いていた。


「いっぱいな、思い出してんか…っ。楽しかったこととか、幸せなこととか…っ、」


幸せで、あったかくて。


…陣ちゃんを、ほんまにほんまにすきやと思って。


「夏の旅行でな…、二人でお酒買い出しにいったん。…覚えとる?」

「…うん。みんなに押しつけられたやつやろ」

「…うん。あん時な」


─あの瞬間。


「ウチ、世界で一番幸せかもって…そう思ってん」


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