落下点《短編》

…あたたかだった光が肌を刺すように強くなる。黄色い光、夏。

みんなで行った旅行。青い海と青い空。さらされた素肌に、みんなバカみたいに笑って写ってる。

暗闇に眩しい花火の蛍光色。赤、青、緑。六人。みんなの笑い声が、写真を隔てて聞こえてくる。肌にまとわりついていた、潮を含んだ風。


…いつしかすり代わっていた、肌寒い風。秋。

おどけて陣ちゃんのマフラーに絡まった。窮屈そうに伸びて、二人の首をひっくるめたチェックのマフラー。

撮った記憶すらあやふやな、何でもない日常の、一粒。信じていた、当たり前に続いていた、あたしたちの日常。



…写真が、途切れたのは。


シャッターを押さなくなったのは、いつ?


冬から春へ、春から夏へ、夏から秋へ。


そして冬。…その、次は?



パスタ鍋がボコボコと沸騰し、ふきこぼれて自らコンロの火を消す。


…付き合う前。初めて外にご飯を食べに行ったときも、そう言えばパスタ屋さんだった。


突然、思い出した。


陣ちゃんのフォークが器用にパスタを巻き取っていく様子に、見とれてしまったことを。

陣ちゃんはパスタをくるくると巻くのがうまかった。あたしは多すぎたり、麺が垂れてしまったりするのに。


まだぎこちない会話。


嬉しかった。会話が途切れないように、あたしにたくさん話しかけてくれる陣ちゃんが。


『…ずっと前から、気になっててんか』


頬を赤く染めて、言われた言葉が。


食堂のマフラーの彼が、

"陣ちゃん"になった、あの日。




写真をめくる手を止めた。これ以上、見てはいられなかった。

今は見られない陣ちゃんの笑顔。それを過去として突き付けられるのは、思ったよりもずっと苦しい。苦しかった。


…陣ちゃん。


あたしたちが、最後に笑ったのは、いつ?


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