落下点《短編》

思うわけない。あたしが思わず声をはりあげた、その時だった。


脱衣場の扉が、ガラリと開いた。


呆然と立ち尽くす。陣ちゃんがいた。感情のない瞳が、あたしの姿をとらえる。


動けない。


…動けなかった。



「…相手、だれ?」



一瞬、誰がしゃべったのか、わからなかった。


そのくらい、陣ちゃんの声は冷たかった。


冷たくて、重くて。



…陣ちゃんがなにを疑っているのか、それは明白だった。



「…じん…ちゃ」
「こんな狭いとこで誰と話してんの?」


なぁ、朋美。優しくそう問い掛けるけど、陣ちゃんの目は笑ってない。

手が震える。力が入らない。

陣ちゃんがあたしに近づく。唇から、震えた息がこぼれ落ちた。


あたしの手から携帯を抜き取る陣ちゃん。


その画面を見て、陣ちゃんは言った。


失望した黒い目で、あたしを見て、言った。



「…信じられへんよ」



…崖から、はるか下にある谷底に、突き落とされた気がした。


「〜っ、違う、ちゃうねんっ!!あれから一回も連絡とってへんし…、今日ほんま久しぶりに会ったから──」
「久しぶりに会ったら、連絡取ってくるわけや?」


ははっと渇いた笑いを漏らし、陣ちゃんは顔をかかえてその場にうずくまる。

放り投げられる携帯。かたい音を立てて、湿った床に落ちる。


はは、はは。生気の抜けた笑い声に、あたしはただその場に立ち尽くす。

あたしを見上げた陣ちゃんの顔は、歪んだ笑みに支配されていた。


「…ははっ、ごめんな、話の邪魔して。何やったらもっかいかけなおそか?朋也に──」
「〜やめてっ!!」


必死になって陣ちゃんの腕につかみかかる。


その瞬間。



パアン────!!



左頬に、花火の散る音がした。


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